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レポートNo.006 生姜酵素を用いた機能性コラーゲンペプチドの開発

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レポートNo. 生姜酵素を用いた機能性コラーゲンペプチドの開発
006

概要

  動物の骨や魚の鱗などからコラーゲンを熱抽出し、酵素でさらに分解したものをコラーゲン加水分解物(またはゼラチン加水分解物、コラーゲンペプチド)と言い、その経口摂取により、骨や関節、皮膚、血管など様々な組織に対する健康効果が多数報告されています。その作用メカニズムは長らく不明でしたが、近年、ヒドロキシプロリン(Hyp:コラーゲンに特有の修飾アミノ酸)を含むジペプチドやトリペプチド※1が、コラーゲン加水分解物を摂取した際に非常に高濃度で血中へと吸収されることが判明し(文献1)、Hyp含有ペプチドの生理活性や体内動態についての研究が盛んに行われています。
  生姜にタンパク質分解酵素が存在することは50年近く前から知られており、特にその食肉軟化作用は昔から研究されてきました。家庭でもよく調理される生姜焼きは、生姜と肉を漬け込むことで風味をつけるだけでなく、生姜に含まれる酵素の働きによって肉質が柔らかくなるという効果もあります。当社バイオマトリックス研究所では、生姜酵素の持つ強力なタンパク質分解活性に注目して研究を重ねた結果、これまでにない新たなコラーゲン加水分解物の開発に成功しました。本レポートでは、生姜酵素を使って開発したコラーゲン加水分解物(GDCH)と、GDCHに特徴的なHyp含有ペプチドの機能性について紹介します。
※1:「ペプチド」とは?
      複数のアミノ酸が複数繋がったものをペプチドと言い、ジペプチドはアミノ酸2個、トリペプチドはアミノ酸3個のものを指します。食事で摂取したタンパク質は体内で分解されてペプチドとなり、その後さらに分解されてアミノ酸となりますが、一部はジペプチド、トリペプチドとして吸収されて機能を発揮することが知られています。

生姜酵素を使った新規コラーゲン加水分解物の開発

  生姜を粉砕、乾燥させた生姜粉末を熱変性させたコラーゲン(=ゼラチン)と反応させると、生姜酵素の作用でゼラチンが非常に効率的に分解され、低分子化(=ペプチド化)されます(図1)。この反応によって作られたコラーゲン加水分解物を分析したところ、X-Hyp-Gly型トリペプチド※2が多量に生成していることが明らかとなりました(文献2)。このトリペプチドは既存のコラーゲン加水分解物にはほとんど含まれておらず、生姜酵素を用いて作製したコラーゲン加水分解物GDCHに特有のペプチドであると言えます(図2)。
※2:「X-Hyp-Gly型トリペプチド」とは?
     アミノ酸X、Hyp、グリシン(Gly)が連なったトリペプチド。Xは様々なアミノ酸になり得るため、X-Hyp-Gly型トリペプチドには複数の種類があります。
 
図1. 生姜酵素を使ったコラーゲンの分解
        
図2. 各種コラーゲン加水分解物中のX-Hyp-Gly型トリペプチド含量

  そこで、生姜酵素とは別の酵素で分解したコラーゲン加水分解物(コントロール)とGDCHをそれぞれマウスに経口投与し、血中へのX-Hyp-Gly型トリペプチドの吸収性を比較しました。その結果、投与後に血中で検出されるX-Hyp-Gly型トリペプチドの濃度は、GDCHを摂取したマウスで有意に高い値となることが確認されました(図3)。従って、GDCH中のX-Hyp-Gly型トリペプチドが、少なくとも一部は、胃や腸で分解されずにそのまま血中へと移行したと考えられます。こうして血中へと移行したX-Hyp-Gly型トリペプチドは、血流に乗って各組織に運ばれて様々な機能を発揮することが期待されます。
  続いての章では、私達の研究の中で明らかとなったX-Hyp-Gly型トリペプチドの生理機能について、簡単にご紹介します。


図3. GDCH経口投与後のX-Hyp-Gly型トリペプチドの最大血中濃度
*p < 0.05, **p < 0.01

X-Hyp-Gly型トリペプチドの骨分化促進活性

  X-Hyp-Gly型トリペプチドの生理機能を探索する中で、このペプチドが骨を作る細胞(骨芽細胞)の分化を促進することを見出しました(文献3)。マウス由来の骨芽細胞にX-Hyp-Gly型トリペプチドを添加して培養すると、未添加の骨芽細胞(コントロール)に比べ、骨分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性や石灰化※3が顕著に増大しました(図4)。さらに、細胞の分化初期において、Ala-Hyp-GlyおよびLeu-Hyp-Gly添加によるコラーゲン分泌促進作用も観察されています。このようなX-Hyp-Gly型トリペプチドの骨分化促進活性から、このペプチドを高含有するGDCHを摂取した際の骨への効果が期待されます。
 ※3:「石灰化」とは?
        骨芽細胞はコラーゲンを分泌しながら自身の周りにリン酸カルシウムを沈着させて骨を作っていきます。これを石灰化と言います。     

図4. X-Hyp-Gly型トリペプチドの骨芽細胞分化促進活性
*p < 0.05, **p < 0.01

X-Hyp-Gly型トリペプチドのアンジオテンシン変換酵素阻害活性

  X-Hyp-Gly型トリペプチドによる生理機能のひとつとして、我々は最近、血圧降下につながるアンジオテンシン変換酵素(ACE)※4阻害活性を見出しました(文献4)。様々な種類のX-Hyp-Gly型トリペプチドに強いACE阻害活性が検出され、さらに、Hypをプロリン(Pro)に置換するとACE阻害活性が著しく減弱することが判明しました(図5)。コラーゲンを構成する主要なアミノ酸であるProの約半分は水酸化されてHypとなりますが、このコラーゲンに特有の修飾がペプチドのACE阻害活性を大きく増強させたことになります。GDCH摂取後にはX-Hyp-Gly型トリペプチドが高い濃度で血中へと移行しますので、GDCHによる血圧上昇抑制効果が期待されます。
※4:「アンジオテンシン変換酵素(ACE)」とは?
     ACEはアンジオテンシンIを部分的に分解して昇圧作用を持つアンジオテンシンIIを生成します。従って、ACE活性を阻害することにより血圧上昇を抑制することができます。

図5. ペプチドのACE阻害活性
50%阻害濃度:値が低いほど阻害活性は強い

総括

  以上のように、当社バイオマトリックス研究所で開発した新規コラーゲン加水分解物GDCHには、特有のX-Hyp-Gly型トリペプチドが含まれており、このペプチドには様々な生理機能があることがわかってきました。また、今回ご紹介した研究とは別に、X-Hyp-Gly型トリペプチドからコラーゲン特異的な環状ジペプチド「cyclo(X-Hyp)」が生成することも明らかとなっており(文献5)、その特殊な構造から、このペプチドも強い生理機能を有する可能性があります。今後、さらに様々なアプローチから研究を進め、GDCHの健康効果を検証していきます。

関連レポート

文献1   Iwai K, Hasegawa T, Taguchi Y, Morimatsu F, Sato K, Nakamura Y, Higashi A, Kido Y, Nakabo Y, Ohtsuki K. Identification of food-derived collagen peptides in human blood after oral ingestion of gelatin hydrolysates. J Agric Food Chem. 53, 6531-6536 (2005)
文献2   Taga Y, Kusubata M, Ogawa-Goto K, Hattori S. Efficient absorption of X-hydroxyproline (Hyp)-Gly after oral administration of a novel gelatin hydrolysate prepared using ginger protease. J Agric Food Chem. 64, 2962-2970 (2016) 
文献3   Taga Y, Kusubata M, Ogawa-Goto K, Hattori S, Funato N. Collagen-derived X-Hyp-Gly-type tripeptides promote differentiation of MC3T3-E1 pre-osteoblasts. J Funct Foods. 46, 456-462 (2018)
文献4   Taga Y, Hayashida O, Ashour A, Amen Y, Kusubata M, Ogawa-Goto K, Shimizu K, Hattori S. Characterization of angiotensin-converting enzyme inhibitory activity of X-Hyp-Gly-type tripeptides: importance of collagen-specific prolyl hydroxylation. J Agric Food Chem. 66, 8737-8743 (2018)
文献5   Taga Y, Kusubata M, Ogawa-Goto K, Hattori S. Identification of collagen-derived hydroxyproline (Hyp)-containing cyclic dipeptides with high oral bioavailability: efficient formation of cyclo(X-Hyp) from X-Hyp-Gly-type tripeptides by heating. J Agric Food Chem. 65, 9514-9521 (2017)

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