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レポートNo.010  Grimontia hollisae由来リコンビナントコラゲナーゼの開発

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レポートNo. Grimontia hollisae由来リコンビナントコラゲナーゼの開発
010

概要

  コラーゲンはGly-X-Y(Gly:グリシン、XおよびY:任意のアミノ酸)の繰り返し配列からなるα鎖と呼ばれるポリペプチド鎖が三本会合してらせん構造をとった棒状の分子です。コラーゲンの三重らせん構造は一般的な消化酵素に対し耐性を示すことが知られており、工業的に利用されるコラーゲンは、ペプシンなどの消化酵素を用いて三重らせん構造を保持したまま可溶化されています。一方、コラゲナーゼは、コラーゲンの三重らせん構造を加水分解する酵素です。当社では、ゼラチン存在下で活性の強いコラゲナーゼを産生する微生物 Grimontia (Vibrio) hollisae 1706B株を単離しました。さらに、G. hollisae 1706B株のコラゲナーゼ遺伝子を同定し、ブレビバチルス発現系を用いて安定かつ高活性なリコンビナントコラゲナーゼの作製に成功しました。このコラゲナーゼは、組織分散用酵素Brightase-C(ブライターゼC)として製品化されています。

微生物コラゲナーゼ

  コラゲナーゼは活性中心にHEXXH配列(H:ヒスチジン、E:グルタミン酸、X:任意のアミノ酸)を持つメタロプロテアーゼで、哺乳動物ではコラーゲンの代謝やガンの転移に関与し、微生物においては病原菌の宿主への侵入やアミノ酸の供給に関与することが知られています。微生物コラゲナーゼはコラーゲンの(Gly-X-Y)nのY-Gly結合を加水分解し、最終的にトリペプチドにまで分解します(文献1)。微生物コラゲナーゼはMEROPSタンパク質分解酵素データベースにおいてM9ファミリーに属し、M9ファミリーはアミノ酸配列や触媒機能によってM9A、M9Bのサブファミリーにさらに分類されます。M9Aにはビブリオ菌由来コラゲナーゼが含まれ、M9Bにはクロストリジウム菌由来コラゲナーゼが含まれます(図1)。
  最もよく研究されている微生物コラゲナーゼは、ガス壊疽菌として知られるClostridium histolyticum由来のコラゲナーゼ(ColG、ColH)です。C. histolyticumコラゲナーゼは触媒ドメイン(collagenase module)、多発性腎嚢胞様ドメイン(polycystic kidney disease [PKD]-like domain)、コラーゲン結合ドメイン(collagen-binding domain [CBD])の3つのドメインから成るマルチドメインタンパク質で、二種類のコラゲナーゼはドメイン構造が異なり、ColGではPKDが1個、CBDが2個に対して、ColHではPKDが2個、CBDが1個です(文献2)。また、この二種類のコラゲナーゼは基質特異性にも違いがあり、両酵素のコラーゲン切断部位が異なることも報告されています(文献3)。C. histolyticumコラゲナーゼは、細胞単離のための組織分散用酵素として研究用途に用いられたり、1型糖尿病患者への膵島移植※のための膵島分離や、デュピュイトラン拘縮(Dupuytren’s contracture)の治療、火傷や潰瘍、褥瘡における組織の除去といった医療用途として広く用いられています(文献2)。

※ 1型糖尿病は、血糖を下げるホルモンであるインスリンが膵臓から分泌されなくなる疾患であり、インスリンを分泌しているβ細胞が死滅することに起因する。膵島移植は、インスリン注射による血糖コントロールが困難である重症1型糖尿病の治療の一つで、膵臓移植に比べて身体的な負担が少ない移植医療である。膵島(別名 ランゲルハンス島)はインスリン分泌を担うβ細胞を含む組織(細胞塊)であり、膵島を移植することでインスリン注射が不要となり血糖値が安定する。

Grimontia (Vibrio) hollisae 1706B株由来コラゲナーゼ

  Vibrio hollisaeは1982年に初めて発見されたグラム陰性菌で、2003年にGrimontia属に再分類された菌です。1998年、当社の鈴木らは東京都新木場の海岸砂土よりV. hollisae 1706B株を単離し、この菌株はゼラチン存在下で活性の強い約60 kDaのコラゲナーゼを産生することを発見しました(文献4, 5)。遺伝子クローニングの結果、本コラゲナーゼはプレプロ領域、触媒ドメイン、pre-peptidase C-terminal(PPC)ドメインから成るマルチドメインタンパク質であり、触媒ドメインとPPCドメインから成る74 kDaの酵素として菌体外に分泌され、分泌後にC末端領域が切断されて触媒ドメインのみの62 kDaの酵素となることが明らかとなりました(文献6)。他の微生物コラゲナーゼとの相同性解析の結果、Grimontia (Vibrio) hollisae 1706B株由来コラゲナーゼは、MEROPSタンパク質分解酵素データベースにおいてM9Aサブファミリーに属することが明らかとなりました(図1)。


図1 ドメイン構造モチーフによる微生物コラゲナーゼの比較(文献6より改変)

G. hollisae由来リコンビナントコラゲナーゼの開発

  微生物コラゲナーゼは、コラーゲンが主成分である組織・臓器を酵素的に分散させ、幹細胞など様々な組織・臓器特異的な細胞を単離する際に用いられています。組織分散のためのコラゲナーゼ製剤には、安定した高いコラーゲン分解活性が求められます。現在、C. histolyticum由来の二種類のコラゲナーゼ(ColG、ColH)を混合した酵素製剤が使用されていますが、C. histolyticum由来コラゲナーゼ製品はコラゲナーゼが精製されていたとしてもロット間やロット内で活性のバラツキが見受けられます(文献7)。一つの製剤に二種類の酵素を混合すると製剤の安定性が損なわれるリスクがあり、両酵素の自己消化によりロット間やロット内で活性のバラツキを生じさせていると考えられます。一方、G. hollisae 1706B株由来コラゲナーゼは、一成分から成るコラゲナーゼ製剤として組織分散に用いることができると期待されました(文献8)。しかし、触媒ドメインとPPCドメインから成る74 kDa酵素は、コラーゲン分解活性は高い一方で安定性が低く、自己消化により触媒ドメインのみの62 kDa酵素となり活性が低下することが明らかとなりました(文献6, 9)。
 そこで、酵素活性の安定性の向上を目的として62 kDa酵素のリコンビナントタンパク質を直接作製することを試みました。ブレビバチルス発現系※を用いて62 kDa酵素の発現試験を行い、培養上清からリコンビナントタンパク質を精製しました。合成ペプチドを基質とした活性測定により、リコンビナント62 kDaコラゲナーゼは、至適pHが7.5〜9.0、至適温度が30〜40℃であり、G. hollisae 1706B株由来コラゲナーゼと同様の性質を維持していることを確認しました(図2)。さらに、リコンビナント62 kDaコラゲナーゼの安定性試験を行ったところ、37℃で24時間まで自己消化せず、コラーゲン分解活性も一定でした(文献10)。

※ ブレビバチルス発現系は高効率分泌発現を特長とするタンパク質生産能に優れた発現系である。Brevibacillus choshinensis はグラム陽性の細菌で、酵素、抗原、サイトカインなど立体構造を維持した活性型のタンパク質の分泌生産の実績がある。 また、リポ多糖を含む外膜を持たないためエンドトキシンを生産せず、煩雑なエンドトキシン除去工程を省略することができる。


図2 リコンビナント62 kDaコラゲナーゼの性質(文献10より改変)
(A)リコンビナント62 kDaコラゲナーゼのSDS-PAGEとゼラチンザイモグラム、(B)至適pH、(C)至適温度。

  FITCラベル化コラーゲンと合成基質FALGPAを用いた活性測定試験では、リコンビナント62 kDaコラゲナーゼのコラーゲン分解活性は、どちらの基質に対しても対照のC. histolyticum由来精製コラゲナーゼ(Liberase MTF C/T, Roche社製)と比べて3倍以上高いことが示されました(図3A)。また、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅴ型、Ⅵ型コラーゲンといった代表的な型のコラーゲンを分解することも確認しました(図3B)。リコンビナント62 kDaコラゲナーゼはC. histolyticum由来精製コラゲナーゼでは切断できないⅥ型コラーゲンを分解することができるため、線維化した組織などⅥ型コラーゲンが豊富に含まれる組織からの細胞単離において優位性があると考えられます。さらには、C. histolyticum由来精製コラゲナーゼでは分解できないグルタミン酸を含む配列も分解するため、効率よくトリペプチドにまで分解可能であることを確認しています(文献11)。



図3 リコンビナント62 kDaコラゲナーゼのコラーゲン分解活性(文献10より改変)
(A)リコンビナント62 kDaコラゲナーゼのFITC-collagenおよび合成基質FALGPAに対する比活性。(B)各種コラーゲンを用いた分解実験。対照のC. histolyticum由来精製コラゲナーゼはLiberase MTF C/T(Roche)を用いた。

膵島分離への応用

  次に、リコンビナント62 kDaコラゲナーゼが組織分散用酵素として使用できるか、マウス膵島分離の実験系を用いて評価しました。コラゲナーゼ(0.15 mg/ml)とサーモライシン(0.012 mg/ml)を混合した酵素溶液を用いてマウスの膵臓を消化し、未消化画分、消化画分上清および消化画分沈殿の三つの画分に分画しました。その後、消化画分沈殿から密度勾配遠心法によりマウス膵島を単離しました(図4A)。単離した膵島が機能を維持しているか確認するため、5匹の糖尿病モデルマウスの腎被膜下へ300個の膵島を移植しました(図4B)。移植マウスの血糖値は徐々に低下し、移植後3日で正常値となりました。一方、膵島を移植していない糖尿病モデルマウスの血糖値は依然として高血糖のままでした。移植後38日に膵島移植腎を切除すると、膵島移植マウスの血糖値は速やかに高血糖の状態へと戻りました(図4C)。以上の結果から、リコンビナント62 kDaコラゲナーゼにより機能を維持したマウス膵島を単離できることが明らかとなりました。


図4 糖尿病モデルマウスへの膵島移植(文献10より改変)
(A)単離したマウス膵島、(B)腎被膜下への膵島移植、(C)移植マウスの血糖値変化。

まとめ

  ブレビバチルス発現系を用いて安定なリコンビナント62 kDaコラゲナーゼの作製に成功し、リコンビナントコラゲナーゼ製剤Brightase-Cとして製品化しました。同様にブレビバチルス発現系を用いてBacillus thermoproteolyticus由来サーモライシン(Brightase-TH)も作製し、初代細胞を単離するための組織分散酵素製剤Brightase-C/THとしてキット化しました。ブレビバチルス発現系は、低エンドトキシンかつ動物由来原料未使用でタンパク質を製造できるため、医療用途のリコンビナントタンパク質の製造に適しています。本リコンビナントコラゲナーゼBrightase-Cは、C. histolyticum由来コラゲナーゼ製剤と同等に組織を消化でき、かつ、Ⅵ型コラーゲンへの分解活性などC. histolyticum由来コラゲナーゼにはない特長を持ちます。また、CBDを持たない触媒ドメインのみのリコンビナントコラゲナーゼであるため、膵島などの単離された組織へ残留しないことや、残留酵素が存在してもコラゲナーゼ活性が低減されることが期待できます(文献12)。上記の理由により、Brightase-C/THは膵島移植や幹細胞移植(文献13)といった臨床用組織分散用酵素として有用です。さらには、組織分散だけでなくコラーゲンのテロペプチドの解析(文献14)やコラゲナーゼ消化トリペプチドの解析(文献15)、腱細胞の組織内における分布の解析(文献16)など基礎研究用ツールとしても活用できます。

参考文献

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9. Tanaka K, Teramura N, Hayashida O, Iijima K, Okitsu T, Hattori S. The C-terminal segment of collagenase in Grimontia hollisae binds collagen to enhance collagenolysis. FEBS Open Bio. 8, 1691-1702 (2018)
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Taga Y, Kusubata M, Mizuno K. Quantitative analysis of the positional distribution of hydroxyproline in collagenous Gly-Xaa-Yaa sequences by LC-MS with partial acid hydrolysis and precolumn derivatization. Anal Chem. 92, 8427-8434 (2020)

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関連製品


 Brightase-C/TH

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