研究レポート

レポートNo.001 不溶性コラーゲン線維の可溶化について
レポートNo. 不溶性コラーゲン線維の可溶化について
001

コラーゲンの可溶化

1950年代に、当時の伊藤勇二社長の方針により、科学技術が進んでいた欧米の研究所に4名の研究員が数年間派遣されました。西原富雄は、1956年に米国ハーバード大学生化学のPaul Mead Doty教授の研究室へ2年半、藤井忠彦は、ドイツのMax Planck InstituteのKlaus Kühn博士の研究室へ派遣されました。当時は、まだコラーゲンというタンパク質の詳細がほとんどわかっておらず、動物組織からは、全体の数%のコラーゲンだけが溶かせるということがわかり、これを当時可溶化コラーゲンと呼び、西原はDoty研究室で可溶化コラーゲンの研究をして帰国しました。
1960年に西原富雄博士によるコラーゲン抽出が成功するまで、コラーゲンは難溶性のタンパク質と考えられており、ゼラチンとして煮出す以外に有効な溶解方法はないと考えられていました。しかし、熱を加えると、コラーゲンが生体内で保っている3本鎖らせん構造は壊れてしまいます。西原博士は、タンパク質を可溶化するためにトリプシン、パンクレアチン、ペプシンといったタンパク質分解酵素を用いるというアイディアを考えだし、本来の構造を保ったままのコラーゲンのほとんどの部分を溶けた状態で得ることに成功しました。この新しいコラーゲン可溶化法は、1960年に特許出願した後、1963年に正式に特許として認められ、さらに米国の特許権も得ました(文献1、2)。また、「コラーゲンに対する酵素の作用と不溶性コラーゲン線維の構造」という論文として発表されました(文献3)。
西原富雄博士は、1966年から再度渡米し、コラーゲンの基礎研究を産業に発展させるために、当時最先端の人工臓器の研究をするためにCornell University のRogosin 研究所のAlbert Rubin研究室へわたりましたが1967年12月に逝去しました。

コラーゲン可溶化法の発明を皮切りに、ニッピ研究所では様々なコラーゲンの可溶化法が開発され、特に、藤井忠彦博士が発明したアルカリによる可溶化法(文献4、5)は、スキンケアクリーム(現:スキンケア ジェル NMバランス)製造にも応用されています。 
また、コラーゲンの可溶化技術とコラーゲンの再線維化技術を駆使して、コラーゲンの医療用途への応用研究を進め、人工皮膚、外科手術用糸、人工透析膜などの開発を行いました。その技術は、当社コラーゲンケーシングや、研究用コラーゲン製品へと引き継がれています。 
コラーゲンの特集 西原の論文も掲載
高分子学会のコラーゲンの特集号 
西原博士の論文も掲載
西原論文から引用 コラーゲン可溶化の模式図
西原博士の論文から引用
コラーゲン可溶化の模式図
コラーゲン分析に用いた超遠心機のローター部分
コラーゲン分析に用いた
分析用超遠心機のローター 
コラーゲンチューブを使った人工透析機 試作品
コラーゲンチューブを使った
人工透析機(試作品)
コラーゲン製の外科手術用糸 製品
コラーゲン製の外科手術用糸
コラーゲンを用いた人工皮膚 製品
コラーゲンを用いた人工皮膚
コラーゲン製の外科手術用糸 製品
コラーゲン製の外科手術用糸(針付)

関連レポート

文献1 国内特許 不溶性コラーゲン繊維の可溶化 西原富雄 (出願 1960年) 特願昭35-2392
文献2 米国特許 Method for colloidally dispersing collagen. Tomio Nishihara (出願 1961年) US patent No. 3121049
文献3 Nishihara T, Miyata T. The effects of proteases on the soluble and insoluble collagens and the structure of insoluble collagen fiber. Collagen Symposium vol.3, 66-93 (1962)
文献4 国内特許 不溶性コラーゲン繊維の可溶化法 藤井忠彦(出願 1971年)特公昭46-15033
文献5 Fujii T. The effect of amines added to an alkali-pretreatment on the solubilisation of collagen and on the properties of gelatin. Hoppe Seylers Z Physiol Chem. 350, 1257-1265 (1969)

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